「私は恵まれている方かもしれません。妻の収入がなければ、子どもは持てなかったでしょうから」
神戸市の居宅介護支援事業所で管理者として働く太郎さん(31)=仮名=は98年に専門学校を卒業し、介護福祉士として老人保健施設に就職した。介護保険スタートの00年、「在宅がやりたい」と今の事業所に入った。
ケアマネジャーになり、2年前から、ケアプランの管理など責任ある仕事を任された。年収は当初の300万円から約80万円アップしたが、1年ごとの契約社員のままで、退職金もない。大手などへの転職も考えたが、介護保険制度の先行きも見えず、踏ん切りがつかない。
結婚は9年前。同じ年の妻は看護師。7年前、長男(7)の出産と同時に仕事を辞め、保育園年長の次男(5)が生まれて1歳半になるまで専業主婦をしたが、その間は貯金を取り崩してしのいだ。
その妻は正職員ではないが、勤める病院がやはり人手不足で、2年前から日曜・祝日以外の週6日勤務となり、帰宅も午後6時になった。そのころから、子どもが言うことをきかないと声を荒らげるようにもなった。
いらだちを察知した太郎さんは、掃除はすべて自分がやることにした。平日の1日を休日とし、その日は晩ごはんも作る。「家に帰ってから全部やらなければならないと思い、気持ちが目いっぱいだった」という妻の不満は、いつの間にか和らいだ。
1年半前、妻と「3人目」を話してみた。2人とも3人兄弟。兄弟は多い方がいいとも考えたが、妻の答えは「経済的にも精神的にもあり得ない」。職場は育児休業を取れる状況になく、仮に出産となれば仕事を辞め、その間は無給になる。
3200万円のマンションを35年ローンで購入し半年しかたっていなかった。太郎さんも納得した。
太郎さんは現在の事業所で正社員なる可能性は薄い。一方、妻には正職員としての引き合いがある。その場合、太郎さんは妻の仕事を優先して自分の働き方を考え直そうと思っているが、妻にその考えはない。
「2人の子ども中心でいこう」。それがいまの結論だ。
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札幌市の特別養護老人ホームで働く次郎さん(34)=仮名=は98年、スポーツインストラクターから転じた。介護福祉士とケアマネジャーの資格を取ったが、非正規。月4回夜勤(午後4時〜翌朝8時)をしても、年収は300万円程度。
市内の賃貸マンション(2DK)住まいで、家賃月8万5000円。市の外郭団体で契約職員として働く妻(34)の稼ぎなくして、長男(4)、長女(1)の4人家族は維持できない。
早番の日は子どもを保育園に迎えに行き、買い物をして食事を用意し、夜7時に帰る妻と一緒におぜんに向かえるなど、今の生活にもいいところはある。約20人の職場の雰囲気も悪くない。だが、3人目の子どもをどうするか、じっくり話し合ったことがない。状況が許さないからだ。
次郎さんは4月から施設長に抜てきされ、正職員になり年収が40万〜50万円増える見込みだが、5年間かけての話。状況は急には変わりそうにない。
労働組合・派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は非正規雇用の現状について「3カ月や半年などの細切れ契約で、年収も300万円に満たず、将来が不安で結婚できないという声を労働相談で聞く。2、3年先さえ見えず、子どもを持つ以前の問題が蔓延(まんえん)している」と話す。【有田浩子】
◇「非正規」「低所得」男性、結婚割合低く
非正規雇用の男性の結婚割合は正規雇用の男性に比べ、半分程度にとどまっていることが、厚生労働省の「21世紀成年者縦断調査」で分かった。
02年時点で20〜34歳だった男女を対象に追跡調査。5回目の06年は、1万7990人から回答を得た。
第1回調査で独身だった人が06年までに結婚した割合は、正規雇用の男性で18・0%、非正規は9・1%だった=グラフ参照。女性は正規、非正規で差がほとんどなかった。
所得別では、06年までの2年間で男女とも「400万〜500万円未満」で結婚した割合が最も高く、男性は所得額が高いほど結婚割合も高かった。
また、妻が正規で働いている場合、06年までに37・3%の夫婦に子どもが生まれたが、妻が非正規の場合は19・3%にとどまった。仕事なし(専業主婦)は38・6%だった