2009年09月22日

一発殴らせろ

 わかった娘はくれてやる
 そのかわり一度でいい
 うばって行く君を 
 君を殴らせろ       

さだまさしの詩『親父の一番長い日』より、親父が娘の結婚を許す一場面。
(ちなみに彼は「作詞家」ではなく「作詩家」だというこだわりがある)
モデルは彼の父。
そして娘とは彼の妹。
『雨やどり』『秋桜』と並ぶ「嫁入り三部作」である。
(さだまさしは、佐田家をモデルに「嫁入り」作品を書いているが、彼の妹である玲子は現実世界では一度も嫁に行っていないそうだ)
しかし、わたくし特異点には昔から疑問があった。
娘の結婚を許すかわりに父親が相手の男を殴る、という話だ。
昔のドラマなんかでは、よく見られたシーンである。
「お嬢さんをください」
「よし、わかった。そのかわり一発殴らせろ」
このセリフを吐くのは、頑固で不器用だが娘を溺愛している父親、と相場は決まっている。
そして、そんな父親の姿を見て、家族が父の愛の深さに感動することになっている。
私はこういうシーンを見るたび「何か変だよな・・・」と思っていた。
ホントにあるのかな、こんなこと・・・
実際私は二度結婚しているのだが、二度とも殴られるどころか、むしろ歓迎された。
だから、父親が娘の婚約者を殴るという行為は、かなり屈折したものじゃないのかなァと私は漠然と考えていた。

たまたま夜のテレビ番組でさだまさしのこの歌を聴いた次の日、散歩の途中で広末涼子にそっくりな人を見かけた。
広末似のその人は、小さな公園で子供を遊ばせていた。
私がじっと見つめていると、向こうも私をじっと見ている。
「広末さんですよね」と私は口に出したかったが、やめておいた。
他人のそら似かもしれないし、万が一本人だとしても迷惑だろう。

その小さな公園を後にした私は、彼女が出演した映画のことを思い出していた。
彼女の出演作で私が見たことのある唯一のもの。
『秘密』('99)である。(原作は東野圭吾のベストセラー小説)
夫・妻・娘の一家がバスの事故に巻き込まれ、妻だけが亡くなる。
しかし生き残った娘には「妻の心」が乗り移っていた。
肉体は娘だが、心は妻。
そして、父であり夫である主人公は苦悩しながら、誰にも言えない秘密を抱え続ける・・・
そんな父を小林薫が、娘・妻を広末涼子が演じた。
映画ではこんな結末になる。
「夜の営み」の挫折から夫婦としてやっていくことを諦めた後、妻は「娘」の幸せを考えるようになる。
次第に「娘」の心が戻ってくるようになったからだ。
夫婦はついに本当の別れを決意し、「妻の心」が娘の肉体から去った。
娘は普通の女の子同様、大学生活を楽しみ、恋をする。
そして娘の結婚式当日の控え室。
娘がした何気ない行動に、娘の中に「妻」がいることを主人公は気付いてしまう。
最後の最後で油断してしまった「妻」と、放心状態の夫。
そしてだんだん怒りが込み上げてきた夫は、何が起こったのか解らない新郎に向かって「一発殴らせろ!」と言って、思いっきりブン殴る。

孤独の中、年老いてゆく夫と、若い肉体を得た妻。
ただでさえ男という生き物は孤独で弱い存在なのに、女というのは実に逞しい。
この物語でも「嘘」の始まりは、最初は「娘」のため「夫」のため、であった。
しかし、途中から明らかに青春を謳歌しはじめる妻。
男は妻に先立たれると、老化が進み早死にすると言われているが、先立たれるどころか娘のカラダで他のオトコと楽しくやられたんじゃタマラナイ。
私だったら、あまりのショックに気を失うだろう。
しかし、映画で気の毒なのは新郎だ。
何も悪くないのに思いっきり殴り飛ばされる。
殴られるべきは「妻」であったのに・・・

話はもとに戻るが、やっぱり父親が娘の結婚相手を殴るというのは、何かおかしい。
私には決して「美談」には感じられない。
そこには「父親」を超えた何か屈折した想いが横たわっているような気がしてならないのだ。
押し殺された「オス」の部分なのか。


しかし、当時18,9のヒロスエ。
透き通るような白い肌が、とっても、とっても、とっても、とっても、眩しかったなァ。

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