――ダウン・タウンにある秘密バー「エンジェル・ハンズ」
店には違法音楽である、ニール・ヤングの“OHIO”が流れていた。
「これは確か、古代の反体制運動の歌だったね」エースが得意のウンチクを垂れた。「昔の人は自由や信義の為に命を賭けたんだ。ロックだなあ…フンフン♪」
「ところで、お前は人が死んでるのを見たことある?」一番年長のハンマーが、仲間達に訊ねた。「オレはまだない」
「変なこと訊くなあ。死んだ人なんて、さすがのオレも見たことないぜ。フン♪」
「オレもない」若いスカーが言った。「でも、オヤジが死にそうになったのを見た事はあるよ」
「へえ♪」「へえ!」
「へえ…計3へえ」最後にコーラが気の抜けた感心の声を上げた。「詳しく教えてよ」
「ちょいと長くなるけどいいかい?」スカーは発泡する緑色の酒を飲み込んでから、ゆっくりと話し始めた。「確かあれは、オレが80代のガキだったころだ。初めて隣のドーム“ドバイ”に旅行に行ったのさ…」
旅に連れて行ったのは、スカーの義理の父だった。
コロニーでは、妊娠出産はもちろん親子の組み合わせまで、中央政府の厳しい管理下に置かれている。
コーラの一家のように、血縁関係の本物の家族が一緒に暮らせるケースは政府関係の一握りの上流階級にしか許されない。
だからスカーのオヤジが義父であるのも、世間ではごくあたりまえのことだった。
でもスカーのオヤジは、本当に人一倍子供を大切に育てていた。
息子を連れて遠い隣のドームまで旅行するのは、大変な費用がかかったことだろう。
ドバイ旅行の二日目に、親子はスーク(アラブ風の市場)に買い物に出かけた。
宗教は対立の元凶として、中央政府により表向きは禁止されている、
しかし現実はそうではなかった。“ドバイ”では異教徒っぽい外見の人間を排他的な目で見る傾向が依然としてあったのだ。
オヤジがタブーを破り、現地の女性に話しかけたことがきっかけで、現地のギャングとストリート・ファイトがおっぱじまった。
スカーも子供ながら勇敢に闘いを挑んだ。
息子を守るために、オヤジはボコボコにやられて瀕死の重症を負う。
砂の地面に義父の血がどんどん吸い込まれていくのを、スカーはずっと泣きながら見ていた。
人は本当に死ぬものなんだとスカーはその時実感し、父を守り切れなかった自分を責め泣き続けたという。
「それで?オヤジはどうなった?」
「警察が来て病院に連れていったよ」スカーは言った。「頭蓋骨骨折やら腎臓破裂やら、けっこうひどく痛めつけられていたから、治るまでに相当時間がかかったんだ」
「その間、お前は?」
「“ドバイ”の少年院に2年ほどあずけられた。ケンカを憶えたのはあそこだった」スカーは言った。「少年院を出ると、すぐに復讐に行ったんだ。オヤジをやったヤツらの顔は、よく憶えていたからね」
「へえ。なんてヤンチャな…」
「刺し違える覚悟で一人づつそっと襲って、結局全員オヤジと同じ程度に半殺しにしてやったよ」スカーがメタル製の右手でシャツを捲くり、腹の古傷を皆にみせて言った。「ほれ、その時の勲章だ。この手も、その時ついでにマシンにしちまったワケさ」
Character © 2008TTTG
「家族の為に闘うってカッコいいな」エースが言った。「それでオヤジさん、いまはどうしている?」
「まだ、“ドバイ”の施設に押し込まれたままさ。一回だけお情けで会わせてもらったけどね。あそこで異教徒犯罪者扱いされたら帰れない。オレだけでも逃げ帰れたのが奇跡だ」
「まじかよ!?ミッドナイト・エクスプレスって映画を思い出すぜ」
「いつかは助け出したいと思っている」スカーが言った。「でも相手が相手だから…」
「それにしても、オヤジさんは何で“ドバイ”でタブーを犯したんだ?スークで女の人に話しかけるなんて」
「スカーに似てスケベだったんだろう」ハンマーが言った。
「馬鹿野郎、違うよ。オヤジは中央政府系の出産データを扱う仕事をしていた」スカーが言った。「おまけに“LOVE”をマジで追及する人だった。“ドバイ”に行ったのは、オレを“実の母親”に会わせるためだったのさ」
「なんだって?!まとめて二つもタブーを犯すなんて、オヤジはタダ者じゃないな!」
「旅立つ前に、義理のオヤジとオフクロには一目でも会いたい」スカーが言った。「そう、思っているよ。これでオレの話は終わりだ」
「お前は、トンでもない熱血“ヒューマン”野郎だ。ほとんど“LOVE”の子じゃねえか!」エースが言った。「相当うらやましいぜ」
「エースは、旅立つ前に誰かに会わなくていいのか?」スカーが、話をリーダーに振った。
「オレは、自分が“LOVE”の子じゃないと諦めているからな」エースが行った。「物心ついた時にゃあ、もう施設でブロイラー暮らしだった」
「いや、少なくともお前の“ヒューマン”度は、惑星ナンバーワンってレベルだ。鼻歌頻度のコンテストがあったら優勝だぜ」ハンマーが言った。「本当は“LOVE”で生まれた子供なんだけど、都合で施設に捨てられちゃったとか…?」
「いいなあ。そんなロックな境遇の生まれだったら…」エースが自嘲気味に笑った。「政府のヤツらが手違いで、プログラムミスしたチップをオレの頭に埋め込んじまった。ブロイラーの出来損ないの“ヒューマン”…大方そんなところさ。フ、フンフン♪」
愛し合う恋人同士から生まれた“LOVE”の子供たちが規制の対象になり、政府が決めた遺伝子の組み合わせにより生まれた試験管ベビーたちが正統とされる、奇妙な世界。
法制化された完全なバースコントロールは、やがて恋愛と子育てを完全に分離してしまったのだ。
セックスそのものはタブーではなかったが、脳内に埋め込まれたブレイン・タグと呼ばれるチップの影響で、恋人達は出産や子育てを恋愛と同一線上の運命とは考えられなくなっていた。
それがどんなに不毛なことであっても、すべては長寿世界を実現するため…。
遺伝子管理を目論む中央政府の生み出した、“ブレイン・ブロイラー法”の生んだ結果だった。
『“LOVE”で生まれた子供以外、本当に人を愛することは出来ない』
これが若者たちが固く信じる、諦めにも似た不文律だった。
それゆえ“LOVE”に憧れるヒューマンの若者たちは、傷つく事を恐れ、恋愛を避ける傾向があったのだ。
そう、ちょうどエースのように…。
“LOVE”の子らと、それになれなかった“ヒューマン”たち。
神様はこれらの少数派の人々に、ある共通の特徴を遺された。
彼らは例外なく、芸術や音楽をこよなく愛したのだ。
そして、母なる星“地球”にいつまでも強く惹かれ続けたのだ。
「もう一杯飲むかい?おいしいカクテルを作ろう」見るからに“ヒューマン”顔のマスターが、浮かない顔のエースに酒をすすめる。「これ“マザー・アース”っていうんだ」
地球儀の海の部分と同じ真っ青な液体が、細いグラスに注ぎ込まれた。
「フンフン、フフンフン♪」
「エースのギターには、絶対に“LOVE”の血を感じる…でも」コーラが、エースの横顔に言った。「生まれなんかどうでもいいよ。私はエースが好き」
ニール・ヤングの荒削りなギター・ソロが、そのセリフをかき消していた。
<7>へ続く…
この小説はランキングに参加しています。
LOOONIES を応援する方は下の“2つの”バナーをクリック!!
ランキングが確認できます。
▼▼▼
にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ
★携帯用目次ページはこちら★
お好きなページに移動できます!
「HEART×BEAT」の他のステージもぜひ訪問して
仲間達の素敵なストーリーをゆっくりとお楽しみ下さい。(ACE)
Neil Young--OHIO