――キュルルルル
合金のメタルアームがワイヤーケーブルの表面を削り、ジェット噴射のような火花を散らしていった。
緑の絨毯がみるみる眼前に迫ってくる。
耳が千切れるかと思われたほどの谷風が次第に勢いを失い、気がつくとスカーは薄暗い森の中を猛スピードで滑走していた。
ワイヤーの降下角度が次第に緩やかになり、遂にはそれが水平に感じるところまでやってくる。
「…いまだ!」
スカーはワイヤーの最下点をしっかりとらえ、キャメを支えていたベルトの取っ手を引くと、その身体を大切に抱え地面に背中から着地していた。
――ドサッ…!
分厚く地表を覆うスポンジのようなコケのお陰で、最後の3メートルほどの落下の衝撃は見事に吸収されていた。
「フウ…。相当おもしろい経験をさせてもらったぜ」
――ドサッ!
一瞬送れてワンが数メートル先にお尻から落ちてきた。
「い、痛てて〜ある。ロボタン、キャメは!?」
二人はキャメの身体を安全な場所に移動させ一息つくと、キョロキョロと周囲を見回す。
初めて見る森の景観は、薄暗がりに目が慣れてきたドーム育ちの若者を完全に圧倒していた。
群生する高さ7、8メートルはあろうかというシダの木々。
ウロコ状の表皮で覆われたその幹から、ノコギリの様な葉が放射線上に突き出し雨傘のように空を隠している。
「ス、スゲエ…!」
「あいや〜」
「ゴ、ゴホンゴホン…」湿気を含んだ樹木の香りに咳き込みながら、スカーは巨石の方を見上げた。「おっと、そろそろお次が来るはずだ」
――キュルルルル
「うわぁぁぁああああ…」滑車の軋む音を追いかけて、ハンマーの叫び声がだんだん大きく聴こえてくる。
スカーは、ワイヤーにぶら下がる仲間の姿に大声で叫んだ。「ハンマー、コーラ!ここだ!取っ手を引け!」
二人はほぼ同時に、それなりのスタイルで着地していた。
「死ぬかと思ったぜ…」カエルのようにうつ伏せになったまま、ハンマーが言った。「オレは、もうこんなこと二度とゴメンだからな!」
「ああ楽しかった!」見事に着地を決めたコーラが言った。「もう一回乗りたいなあ…」
二人も目が慣れるとすぐに、初めての森に驚きの声を上げた。
「聞きしに勝るとは正にこのことだ」ハンマーがジジ臭い表現で感動をあらわした。「長生きはするもんだ…」
「不思議な馨りがする」コーラが、シダの葉に顔を寄せて言った。「生まれる前に嗅いだような懐かしい匂いだわ…」
「きたぞ!」
――キュルルルル…
みんなは同時に、近づいてくる滑車の音の方を見た。
「あらよっと!♪」エースが最高のタイミングで取っ手を引くと、クルッと一回転してから両手を開き、シュタっと見事に着地する。「どうだ!♪」
――パチパチパチ…
ワンが思わず拍手をして言った。「9.97!」
「小技まで入れやがって」ハンマーが悔しそうに言った。
「みんな無事か!?♪…それにしても森ってのは…」エースも、そばのシダの幹に手を当て、初体験する生命の虜になる。「心を震わせるような凄い力があるもんだなぁ」
「さて、さっそくだけど…」スカーが、口をあんぐりと開けて木々の様子に釘付けになっているエースに言った。「これからどうする?」
「ここで、オージンとフリッグが到着するのを待つ。そうだ…」エースはすぐに我に還りテキパキと指示を飛ばした。「ワン、スカーと一緒にキャメを再起動してやってくれ。しばらくは森を進むから、みんなそれなりの服装に着替えて出発の準備をしてくれ!」
*
――目ん玉、ちょうだい、目ん玉、ちょうだい〜
「気味の悪い人喰いジジババどもめ!」思わずデコがビーム・ガンを構える。「これでも食らえ!」
「バカ!撃つんじゃない!デクノボー」ボコが言った。「この二人が相手じゃないんだ。この後ろに大群がいることを忘れるな!」
「そ、そうだった」デコが言った。「どうすれば、いい?」
――キラン、キラン〜。
「あれを見てみろ。盛り上がった幼稚園児みてえなもんだ。話して分かるような相手だと思うか?」
デコがクビを横に振った。
「ちょちょちょ、ちょうだいだと?」ボコが言った。「インセックの追跡官の命であるレイバン製のサングラスを、テメエら原住民にタダで渡してたまるか!」
「へえ、レイバンていうの?レイバン、ちょうだい、レイバン、ちょうだい」
「イヤだって言ってんだろが!」
「じゃあ、何かと交換するだわさ」フリッグが提案する。
「こ、交換?意外に論理的なこと言うじゃねえか」ボコが感心する。「おいデコ、聞いたか?コイツら、まんざらアフォ〜じゃないぜ」
「ああ。驚いたな」デコが思わず反応する。「な、なにと交換したいんだ?」
「この爺さんと交換てのはどうだわさ?」フリッグが連れ合いを前に押し出した。
「やっぱ、アフォ〜だわ!」ボコが即決で断った。「いらねえよ!なに考えてんだ!?貰うっていうか、こっちが介護料請求したいくらいじゃねえか!」
「なんだ、けっこういい取引きだと思うだがに」オージン本人が言った。
「バカか?なんでオレ達がジジイを引き取らなきゃなんねえんだよ?!」ボコが呆れ顔で言った。
「そんなことより、質問に答えやがれ!」デコがビームガンを振り回して訊ねる。「一緒にここに来たチンピラどもは、どこに消えた?やっぱり、食っちまったのか!?」
「まさか。でも、教えない〜。もったいないだわさ」
「食った気もするし、食わなかったかもしれないだがに。ああ、ガラスの目ん玉くれればなあ…」
「クソ!こ、こいつら人並みにトボケて交渉しようとしてやがる」ボコが言った。「デクノボー、お前余分にいくつもってる?」
「なにを?」
「だから、サングラスだよ!」
「あともうひとつ持ってる」
「オレも…」
「キャメ、キャメ!」ワンが再びパワーを入れたアンドロイド・ラクダに、必死で話しかける。「わたしのこと、憶えているあるよな?」
「ハジメマシテ、ゴシュジンサマ。ドコニ、マイリマショウ」
「キャメ!なに寝ぼけてるあるか?」ワンは諦めない。「一緒に砂漠を旅したろう?」
「ワタシニ、ナマエハ、アリマセン。ドコニ、マイリマショウ」
「キャメ、キャメ…」
「ワン、もう諦めようよ…」エースが、ワンの肩を揺すった。「さあみんな、荷物をラクダに積もう」
重苦しい空気が、シダの森に漂い始めていた。
――キュルルルル…
「あっ!オージンとフリッグが並んで降りてくるぞ♪」
エースが一番先に滑車の音に気づき、ワイヤーの方を見上げた。
「な、なんだか変だ♪♭」
――ドスン、ドスン。
森の妖精のような老人たちが、地面に尻餅をつく。
二人は立ち上がりながら、お揃いのレイバンのサングラスを自慢げに指で持ち上げてみせた。
「みんな、待たせただがに。キンキラリ〜ン」
「おっ星さま、キラン、キラン」
「ふ、二人とも、それどうしたんですか?♪」
「黒服の旅の者から、貰ったわさ〜」
「なんだって!?♭」エースは、すぐに全てを察知していた。「ヤ、ヤツら、追ってきやがった…。みんな、すぐに発つぞ!!」
「なんだか今日は、森が妙に真っ暗だわさ」フリッグが言った。
「そうだがに。もう夜が来ただがに?」オージンが言った。
――キュルルルル…
「ああ…」エースが巨石の方を見上げて、頭を抱えた。
「やつらがこっちに降りてくる!!」
続く…
この小説はランキングに参加しています。
LOOONIES を応援する方は下の“2つの”バナーをクリック!!
ランキングが確認できます。
▼▼▼
にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ
★携帯用目次ページはこちら★
お好きなページに移動できます!
「HEART×BEAT」の他のステージもぜひ訪問して
仲間達の素敵なストーリーをゆっくりとお楽しみ下さい。(ACE)