「それにしても、この惑星に出口が一つもないってのは、本当なのか?」ダウンタウンへ戻る途中、スカーが仲間達に訊ねた。ハイウェイの街路灯で、思いつめた横顔が明と暗を交互に繰り返している。「大昔にインター・スペースウェイ(亜空間航路)のゲートを、中央政府が戦争を防ぐ為に塞いでしまったって…」
「そうスクールでは教わったけどね。本当のところは誰にもわからないよ」モービルを操縦しながらエースが言った。「オレは、ここにある5つのドームを全て旅して回った。あれは、今から30スペース年も前のことだ。あの頃、オレはな…」
その話ならもう100回は聞いたというスカーの警告を無視して、エースが若き日の冒険譚をイントロから始めようとしていた。
「わかった、わかった!勘弁してくれよ。何度かドームの果てまで旅をしてみたが、それらしいところにはかならず<NWO>って警告が書かれていた…」ハンマーが強引にエースの話を遮った。「そう言いたいんだろ?」
「あ?ああ」エースが、渋々頷いた。「あれは多分、NoWayOut(出口なし)の略なのさ。フンフン♪」
「でも入り口があって出口のないスペースなんて、この世にあると思うか?」スカーが、空を指差し補足する。「定期的にどこからか物資が届いているらしいし、ここに腐るほどある金や錫などのメタルをどこかにそっと運び出しているという話も聞いた。貿易先とコンタクトを取るために使節団が派遣されているという噂だってあるんだから」
鉄鉱石はもちろんのこと、金銀銅、プラチナに錫。建物の外装にまでゴールドを使うほど、この星にはあらゆるメタルが溢れていた。きっと、それがこの惑星の経済を支えているはずなのだ。
しかしその代償のつもりなのか、神様はこの星に植物は愚か一縷の生命さえもお遺しにならなかった。
ここではすべての炭素がダイヤモンドに結晶してしまっているせいで、生死を問わず、有機物こそが最も貴重な物質だったのだ。
信じられない事に、ダイヤを砕いて炭素に戻し、それを原料に有機物を組成する工場がいたるところにある。
昔の人には、ダイヤから靴下を作るこの星の生活が絶対に理解できないだろう。
「人類がこの文字通りの不毛の地に棲み付いて早や1400年、もとからあった物だけで4800万人の人間が、そんなに長く暮らせるわけないもんな…」
「ドームの外には酸素がないから出たら死ぬと言われているが、それも嘘だって言うヤツもいる。フ、フンフン♪」
「すべては、人々をここに有無を言わせずに大人しく留めておくための方便なのさ」スカーが言った。「“ゲート”はまだ残っている。隠しているだけだ。間違いない」
「お前が持っていた写真がすごく保存状態がいいのも、どこからか最近持ち込まれたものだからかもしれないな」ハンマーがそう言って溜息をついた。「ああ、“海”が見てえ!平泳ぎで泳ぎてえ!」
泳いだことのない人間までがいつまでも地球の海に恋焦がれるのは、それがそもそも生命の起源であるからなのだろう。
Character © 2008TTTG
往く手の街の背景が淡い紫色の照明に明け始める。それは、システムでコントロールされた人工の朝…。
「それにしても、ここを抜け出したいと、皆はなぜ思わないんだろう?」スカーが言った。「ここに“閉じ込められている”なんて事を妄想するオレ達の方が、どうかしているのか?」
「さあ…。なにが正しくてなにが間違ってるかなんて、見る角度次第だ。誰にもわからないさ」エースが言った。「はっきりしているのは、オレ達3人がいつか“海”を見たいと心から願っていることだ♪」
「なあスカー、さっきの写真をお前に渡したファンの娘だったら、何か知っているんじゃないか?」ハンマーが言った。「彼女は間違いなく“ヒューマン”だろ?って言うか、もしかしたら、本物の“LOVE”の子かもしれないな」
「知っているって、何を?」
「“海”を見る方法に決まってるじゃないか!また、その娘に会えないかなあ?」
「会えるよ。来週のゲリラ・ギグを見に来るって言ってたから」
「やった!オレにも紹介してくれよな」ハンマーが言った。「可愛いのか?その娘」
「うん。エースの熱狂的ファンだってさ」
「…あそ」
「スカー、ギグの晩その娘が見つかったら教えてくれ」エースが言った。「ピックを投げてウインクしてやる。フンフン♪」
*
今から、25スペース年ほど前のこと。
3人は、ハンマーが働いていたダウンタウンの非合法のアンティーク・ショップで出会い、すぐに意気投合した。
共通の趣味が、禁止されているあの“音楽”だったから。
それは「クラシック・ロック」――人類がまだ地球に住んでいた時代、グレゴリオ暦20世紀の後半に突如生まれた音楽。
ロックは、たった50年ほどの瞬きするほどの短期間で、メロディー、演奏、詩、ファッションなどの様式が爆発的な勢いで極められ、21世紀に入ってからはピーク・アウトしたかのように、ほとんどいっさいオリジナリティの進化が見られなくなってしまった不思議な音楽だった。
それ以降は、音楽様式よりもむしろ「生き方」として、若者の心に長い時間居座り続け、結果20世紀のロック・アーティスト達は彼らの“神”のような存在になった。
しかし、体制に組せず自由に自分らしく生きるコト、そんなリベラルな考えを背骨とする“ロック”という文化が、民を家畜のように画一的に治めたい中央政府のお気に召すはずもなく、スペース世紀に入ってからは禁止文化になっていた。
でも禁止されたからといって、その魂は決して死ぬ事はなかった。
ロックは人の心の中にひそかに生き続けたのだ。
そして偶然出逢ったロックを愛する3人は、その日のうちに念願のスリーピースバンドを結成した。
その名も、「THE LOOONIES(いかれポンチ)」!
NO WAY OUT<3>へ続く…
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