Story by 角森隆浩
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先日あたしのマンションの隣のボロアパートで、強制立ち退きっていうのかしら?業者さんが来て、荷物を全部運び出して行ったわね。
そう、わたしの部屋の窓を開けてちょうど真正面の人の部屋よ。
本当に薄気味悪い人だったわ。
防音も何もないオンボロアパートなのに、朝も夜も大っきな音で吐き気がするようなロックばかり聞いてるんだもの。
もうわたし、ノイローゼになりそうだったわ。
夏でも真っ黒な革ジャン革パン姿で、もう見るからに不衛生だったわ。
風向きによっては、なんかプーンとイタチみたいなスッゴイ臭いが漂ってくるの。
どう考えても、それってあの人の体臭なのね!
信じられる?人間の体からあんなクサイ臭いが発するなんて…。
嗅いだことはないけど、たぶんカエルみたいな臭いよ。
わたし『ココはドロ沼か?』と思ったわ。本当におそろしかったわ。
心底おぞましい人…。
ああいう人を『ヘビメタ』っていうんでしょ?
ねえ、わたしホントにそんなの大嫌いなのよ。
去年の夏、こんなことがあったわ。
忘れもしない、最悪の出来事よ。
それからしばらくの間、お食事もノドを通らなかったんですもの。
全部吐いてしまうんで….。あまりに醜悪な光景を見てしまったから…。
ああ、もう思い出したくもない。
おそらく生涯トラウマとして、わたしに付きまとうでしょう。
その日の午後もまたうだるような暑さだったわ。
ここ数年の夏の暑さは異常よね。
わたしは四六時中クーラーを点けっ放しにしてた。
身体にも美容にも良くないことは判っているわ。
でもわたし雪国の出身でしょ、暑さに弱いのよ。
この東京の暑さは尋常じゃない。
だからわたし、その日もずっと冷房を効かせっ放しにしていたの。
さすがに体のダルさを感じたわ。
いくらなんでも体を冷やしすぎね。
わたしは肩をすくめると、しばらく換気しようと窓を開けたの。
そしてその瞬間、信じられない光景がわたしの目の中に飛び込んできたのよ!
わたしが窓を開けた時、正面のヘビメタさんも窓を全開にしてたので、彼の部屋の中が丸見えになってしまったの。
わたし、そんなもの見るつもりはなかったわ。
ただ、わたしのマンションとお隣のボロアパートは、あまりに近くに隣接してるでしょう?
だからつい全容が見えてしまったのよ…。
ヘビメタさんは室温が50度はあろうかと思われる灼熱の部屋の中でも、革ジャンを着てたのよ。
もちろん汗だくだったわ。
しかし驚いたのはそんなことではナイの。
あの人、革ジャンの下、なんと下半身が全裸だったのよ!
「け、けがらわしい!なんという醜さなの!こんな男もはや人間ですらないわ!わたしは絶対に許さない!」
思わずそう叫びそうになったわ。
なんて度し難いハレンチな男なんでしょう?
わたしは必ずやこの男を訴えなければならないと決意した。
こんなキタナイもの、もう1秒だって見ていたくない!
彼はわたしに背を向けたまま、お尻をこちらにムキ出しにして、野球のキャッチャーのような姿勢で座っていたの。
要するに和式のおトイレに座るような格好よね。
えっ!わ、和式?お、おトイレ?
わたしは愕然とした…。なぜだかわかるでしょ?
そして戦慄のあまり、気を失いそうになってしまったのよ!
「こ、この人狂ってる!自分の部屋の中でウ○コするつもりよ!」
わたしは思わず声に出して叫んでしまったわ!
この世で一番けがらわしいものを今から直視しなければならない現実を認めたくなかったの。
それゆえ叫んでしまったのね。
そしたら彼、わたしの視線に気がついたみたいで、そのままのポーズでニューッとこちらを振り返ったの。
「やあ、お嬢さん、いいお天気ですな!」
彼はお尻をムキ出しのまま、イキナリわたしに笑顔で挨拶したのよ。
ええっ?何、この人?
今自分がどれだけ異常なシチュエーションを創造してるのか、わかってるの?
「聞いてください、お嬢さん。ワタシは今ヒジョーな人生の危機に直面しています。今からワタシが行うコトは、とても勇気が必要であり、ハンパな男にできるシロモノではありません!」
なんなの?この人。
部屋でウ○コするのを正当化しようってワケ?
だとしたら本物のケダモノよ!
もしあなたがウ○コしたら、わたし絶対に吐くわよ!
約束するわ、この窓から吐きまくってやる!
「お嬢さん、この真っ白な座薬が見えますか?わたしは今からこの座薬を自分のケツに入れなくてはナリマセン!実に悲しいことです。しかし、こうするしかもう道はナイのです!」
たしかに男は白い座薬のようなものをわたしに向かって掲げてみせた。
えっ?なに?座薬?ウ○コじゃないの?
「お嬢さん、ワタシは数年来すさまじい『イボ痔』の痛みと戦ってきました。そして今日、ついにこの対イボ痔戦争と決着をつける時が来たのです!ワタシはこの座薬をケツにブチ込みます。その勇気があれば、すべてが上手く行くのです。いいですか、痔に蝕まれたワタシのアナルは、腐敗し切った『体制』そのものです!そして、そのケツに座薬をブチ込もうとするワタシの『意思』こそが、本当の意味での『パンク精神』なのです!」
男は必死の形相でわたしに語りかけてきたわ。
何かを伝えようとする人間の切迫した感じは伝わってきたの。
でも言ってることが、あたしには100%理解出来なかったのよ。
「お嬢さん、これが真のオリジナルパンクの在り方だ!座薬を入れてやる!でも初めてなんだ、座薬って!こ、こんなものケツに入れるなんて、信じられない!お、俺は怖いんだッ!たすけてお嬢さん!アンタ手伝ってくれ、俺は自分じゃムリだ!たのむ、アンタがケツの中に、この座薬をツッコンでくれ!」
男は泣きながらわたしにそう懇願すると、半分ほど座薬の入ったお尻を窓越しにグイグイ近づけてきた。
わたしは硬直して動けなくなったわ。
そう金縛りよ。
そして目の前に男のケツがドンドン迫ってきたの。
手をのばせば届きそうなほど隣接した私たちの建物。
わたしは目を見開いたまま、男のケツが躊躇なくわたしの顔面へと近づいてくるのを避けることができなかった。
やがてアナルはゆっくりとターミナルの終着駅のように、わたしの鼻先へと届いたの。
わたしは鼻で彼の座薬をエイッと押し込み、その瞬間、白い座薬は彼の体内へと消えて行ったわ。
「お、お嬢さん、これはワタシたちふたりの勝利です!ワタシひとりの力でイボ痔という悪逆なシステムを破壊したのではありません!お嬢さん、あなたとふたりで成し得た偉業なんだ。これはジャパニーズパンク史に残る快挙だ。俺はこんな感動、初めてだ。お嬢さん、あなたは俺の『ナンシー』だ!ってことは、俺はあなたにとっての『シド』なんだ!」
男はまた訳のワカラナイことを、わたしに向かってわめき出したの。
わたし、フト我に返ってあわてて窓を閉めたわ。
なんて悪夢だったんでしょう!
こんな凄惨な地獄がわたしの生活に降り掛かってくるなんて!
こんなけがらわしい男、もう二度と顔も見たくない!
もちろんアナルも二度と見たくないわ!
肛門ヘビメタは、わたしが窓を閉めた後も何やら必死で叫んでいたけど、そのうち静かになった。
そして翌日から彼は消えたの。
うるさいロックもピタリと鳴り止み、とにかくアパートに彼がいる気配がなくなったわ。
『もうこのままどっかに消えてくれればイイ…。』
わたしはそう願わずにはいられなかったわ。
永遠に何処かにいなくなって欲しいの…。
それから4ヶ月後、彼の部屋の荷物を業者さんが運び出し、彼は立ち退きとなったの。
もうこれで彼と会うこともないんだ、永遠に…。
わたしは指で自分の鼻先に触れてみた。
そしてその指をクンと嗅いでみたの。
4ヶ月も経ったというのに、わたしの鼻先はまだ豚のクソのような臭いがしてるわ。
この香りが、あのけがらわしい男がわたしに残していった唯一の置き土産ね…。
続く…
角森隆浩(ツノモリタカヒロ)
2005年、角森宅に泥酔した泊まり客が置き忘れて行ったウクレレを
ポロポロ弾く内に曲が出来始め、単身ライブハウスへの出演を始める。
2005年11月、1stソロ・ミニアルバム『角森隆浩vol.1』を、
2006年3月に『角森隆浩vol.2』をリリース。
2006年、角森が所属するバンド『ninotrinca』のスタッフだった
ともみ、舞、のんこが「キレイなムームー着てハワイアンの真似をやりたい」
という下らない動機で『ダイナミックオーシャンズ』を結成する。
既にウクレレ弾きだった角森に白羽の矢を立て招聘、
『角森隆浩&ダイナミックオーシャンズ』がスタートする。
2006、2007年、精力的にライブ活動を行う。
どこに行っても、誰と演っても、唖然とされた。
小西昭次郎(元”BL.WALTZ” ドラマー)のプロデュースにより、
オーシャンズ初アルバム「VIVA! DYNAMIC」を制作、2008年8月27日にリリース。