「…考え、直して…よ…っ」
私は情けなく、ぐずりながら言った。
「…考え直してどうにかなる事なの?」
ピタッと止まって、遥斗が尋ねる。
「だって…遥斗の事、好きだけど…っ…まだ、こんなのしたくない…っ」
涙がどんどん私の頬を伝い流れる。
「…俺だって、余裕ない」
遥斗が呟く。
「…どんどん笑ちゃんが、愛しく感じれば感じるほど、笑ちゃんが欲しい。好きだって思うだけじゃ、足りなくなる……それは、いけないことなの?」
好きだから、一緒にいたい。
好きだから、抱き締めたい。
その気持ちは、一緒。
それに。
遥斗が離れてくのは嫌。
遥斗に嫌われるのも嫌。
私が嫌だって言っても、遥斗がずっと好きだって言ってくれてたから、今がある。
全部、遥斗のおかげなんだ。
それに、遥斗を失ったら…私はどうなる?
これを断ったら、遥斗は離れてくの?
「…いけないこと…じゃ…な…い…」
唇が震えて上手く言えない。
「は、遥斗が…望むなら…っ」
「…本気でいいの?」
遥斗が真剣に尋ねる。
「途中で止まらなくなるよ?笑ちゃんの事、めちゃくちゃにして、泣かせちゃうかも知れない。それを分かってて言った?」
遥斗は私の髪を指で掬(すく)うと、髪にキスした。
「…っ」
本当は怖い。
自分がどうなるのか分からないから。
「…ほら、怖いんでしょ?」
遥斗が優しく言った。
「…自分から笑ちゃんを欲しいだなんて、笑ちゃんを急かす真似なんかしてごめん」
遥斗は私を抱き締めた。
「まだ子供なのにいきがるな、って話だよね……でも、これで笑ちゃんが誰かにさらわれる事もない」
遥斗は私の首筋に付いた印を指差した。
「“ずっと俺だけのモノ”っていう所有印。これ見ちゃ、誰も奪えないでしょ?」
「…うん…」
「消えても、いつだって俺のモノだと証明してあげる」
「うん…!」
小さな、でも、私の心には大きな存在を残す王子様。
彼は幼馴染みで、アイドル。
でも私からしたら、最初はただの弟のような存在にしかなくて…。
でも、時々見せる可愛い所とか、男らしい所は、私に『愛しい』と思わせる。
年下でも男の子って意識させられる。
子供なのは私だ。
「年下だから」なんて決め付けて、遥斗の事見ようとしなかった。
初めから、大人なのは遥斗。
私が何言ったって折れないで、私にぶつかってきた。
「好き…っ」
私は言った。
「遥斗が好きっ!大好きだよ…っ!」
「俺の方がもっと好きだよ…」
*
−4年後−
『Cu-luに新メンバーが加わってから、三年。これからも一層頑張りますので、宜しくお願いしますっ!!』
朝のテレビの画面に遥斗や深斗くんたち、Cu-luのメンバーが映っている。
あれからCu-luに、深斗くんの他に四人の男女が加わった。
「遥斗くん、17歳になってから大人っぽくなったわねぇ〜」
お母さんが呟く。
「…あ。」
テレビ画面に映る遥斗の首に光るネックレスに気が付く。
ネックレスの飾りに、私とお揃いの指輪がぶら下がっている。
「何?」
お母さんも画面を覗き込む。
「何でもないよ」
私はあえて教えなかった。
「さ、仕事に行ってくるわ」
「行ってらっしゃい、笑愛。気を付けて行くのよ?」
「分かってるって!」
あれから4年。
私は21歳、遥斗は17歳になった。
私は高校卒業後、仕事を始めた。
遥斗は変わらず、アイドルの仕事を続けている。
『じゃあ今日も張り切って行くぜ〜っ!』
Side/遥斗
あれから4年。
進展…なし。
何も変わらず。
将来の話をしただけで終わった。
俺はアイドル続けて、笑ちゃんはそれを応援する、と…。
真面目な話なのに、真面目に終わった。
「あ〜ッ!!」
俺と灯理は同時に机をダンダン叩いた。
「うるさい。遥斗、灯理。イライラしてんならカルシウム摂れ」
月が言う。
「「うっさいなぁ!」」
俺達はハモった。
「お前ら年上に向かって、『うっさいなぁ』はないぞ…」
「ひっ!つ、月ちゃんごめんね!?」
「謝られても灯理だからウザい。」
「何それひどい!!」
「それより、灯理とバカ兄貴が結婚なんかしたら、灯理は私の姉か…年齢的に考えても嫌だな」
「ちょっと!嫌って何!?」
灯理はあれから、どうしてそうなったのか、月の双子の兄・日向と付き合っている。
「手が掛かるって事だよ」
月はそう言うと、隣に居た日向の椅子を殴った。
「おい!何で椅子を殴る!?」
黒崎兄が言う。
「まぁ…仕方ないから、しばらくは面倒見てやってもいいかな」
月はフッと笑った。
「ついに認めてくれたのか、月!?」
黒崎兄は月に尋ねる。
「灯理はね。兄貴は私の兄貴だとは認めてないからな」
「月!?ひどいよ!?」
「ひどくありません。認められたいなら、頑張んなさい」
「上から目線だねぇ、月ちゃん」
「やっぱり灯理も認めない」
月はプイッと外を見た。
「…さ、今日も一日頑張るぞ!」
白石さんが言う。
「おーっ!!」
俺達Cu-luは叫んだ。
「…な、遥斗。聞いてくれよ」
衣羽がコソコソと俺に話し掛ける。
「何だよ」
「俺、高校卒業したら、由梨絵と結婚することになった」
「は、はぁあっ!?」
「しっ!声でかいって!!」
「悪ぃ。でも、マジなのかよ」
「マジだって!」
あわよくば、俺もいつか笑ちゃんと、け…
っと、勝手に妄想はダメだよな…。
「よく両親説得できたな?」
俺は溜め息混じりに言った。
「何回も訪ねては頭下げたっつの。大変だったよ…」
「でも認めて貰えて良かったじゃん。羨ましいな」
「お前の方が楽なんじゃね?笑愛さんのお母さんの後ろ楯ってやつがあるじゃん」
衣羽は気楽そうに言う。
「バカっ、分かってねぇな。愛樹さんがいるだろ!あの人はこえーんだよ…」
「あはっ!だって遥斗は目の敵にされてるもんな」
「…てゆうか今思ったんだけど、俺達よく週刊誌とかで報道されねぇよな?」
俺は言ってみた。
「いいことじゃん」
衣羽はニコッと笑う。
「考えなしって怖い。」
俺は思った事を呟いた。
「なーに話してるんですか?」
新メンバーの内山未来(うちやまみく)が、俺達に背後から話し掛けてきた。
「わ、何でもないよ!何でも!」
「あやしーですね。何か隠し事ですか?」
「みーくー…あんた、また遥斗先輩たちに迷惑かけるのやめなさい!」
もう一人新メンバーの後藤凛香(ごとうりか)が言う。
「迷惑だなんて…別に大丈夫だよ」
衣羽が答える。
「そういえば、Cu-luのみなさんってモテますよね?」
未来ちゃんが尋ねる。
「モテないよ。普通」
「そーそー」
「でも、白石さんは凄くモテるよ」
「男の中の男!って感じがあるからね〜」
「バカ野郎、んなことねーよ」
「灯理はね、大恋愛中!」
「私はモテないぞ」
みんなが口々に喋る中、凛香ちゃんは俺を見た。
「…な、何かな?」
俺は尋ねる。
「遥斗先輩には、大切な人が居る気がするんです」
「!」
「…居るんですね?」
「秘密だよ。アイドルには、少しくらい謎がないとね」
「さ、みんな。そろそろスタンバイだ。準備はいいな?」
「OKです!」
白石さんの言葉に新メンバーの男子たちが答える。
「俺達は、全員でCu-luだ。一人でも欠けちゃ意味がない!今日も頑張るぞ!」
「おーっ!!」
−END−