(藤岡博之、岸下紅子)
◆満足
「ご神体の力を素肌で感じたいんです」と往復約2時間の山道をはだしで歩いている女性がいた。奈良県桜井市の大神(おおみわ)神社のご神体の三輪山(標高467メートル)では、20〜30歳代の若者が激増している。数年前には考えられなかった光景だ。
今年の大型連休中、三輪山には1日当たり例年の6倍以上の約1000人が入山。山道を歩き通した兵庫県西宮市、近畿大5年佐藤理栄さん(24)は「心身の疲れが取れた。お山に力をもらった気分」と満足そうだった。同神社の山田浩之権禰宜(ごんねぎ)(45)は「若者が心の問題に向き合う場として、神社を認知し始めた」と喜ぶ。
◆行列
パワースポット人気は、スピリチュアル(霊的)ブームの延長とされる。霊能者や芸能人が訪れる神社や自然がテレビや雑誌で紹介され、昨年秋頃から一気に火がついた。
必ずしも参拝が目的ではない。東京の明治神宮では、戦国武将・加藤清正ゆかりの井戸「清正井(きよまさのいど)」を携帯電話の待ち受け画面にすると幸運が訪れるとして、大勢の人が集まる。今年の正月には、5時間待ちの行列ができた。神社は現在、1時間ごとに区切った整理券を配り、対応している。
ヤマタノオロチ退治で知られる須佐之(すさの)男命(おのみこと)を祭る島根県出雲市の須佐神社。境内では、推定樹齢1300年のご神木「大杉」が参拝者の“スピリチュアル”をかき立てるといい、若い女性たちが木の幹に向けて、手をかざす姿がみられる。
神職は「数年前まで年間1、2万人だった参拝客が、今では10万人はいるのでは」と話す一方、「携帯のカメラで大杉を撮影するのに夢中で、鳥居や本殿は素通り。神社はお参りするところなのに」と困惑する。
◆不安?
何が人々をパワースポットに引きつけるのか。
鎌田東二・京都大こころの未来研究センター教授(宗教哲学)は「政治、経済、社会、家族、いずれもが衰退する不安な世の中で、パワーという物量的、即物的な響きが魅力なのだろう」とみる。また、小松和彦・国際日本文化研究センター教授(民俗学)は「歴史の地には正の面と、怨念(おんねん)の受け皿となった負の面がある。単純にありがたがるばかりでは、逆効果にもなりかねない。両面を理解して出かけた方がいい」と語った。
パワースポット 風水学、気功学、スピリチュアリズムなどの立場から、特別な力が得られるとみなされている場所。宗教的な場が精神面に好影響を及ぼしたり、豊かな自然が健康をもたらしたりするなどの効果があるとされるが、必ずしも科学的根拠はない。
(2010年8月20日 読売新聞)