メランコリアの寓意 1528
クラナッハ(父) スコットランド・ナショナル・ギャラリー
クラナッハ(父) スコットランド・ナショナル・ギャラリー
メランコリア(メランコリー)は皆さんもよくご存知の憂鬱。心理学を専攻した方はご存知と思いいますが、ヒポクラテスの「四体液説」のひとつですね。楓はこの作品を、aleiやsaiのように「宗教改革」から紐解きたいと思っているんです。七つの大罪以前には「八つの枢要罪」がありました。その「八つの枢要罪」にメランコリア(メランコリー)があります。
宗教改革で有名なマルティン・ルターのために絵画作品を通して貢献したのがルーカス・クラナッハ(父)ですよね。
ルターはアリストテレスが嫌いとaleiの記事にあったとおり、クラナッハ(父)は、権威を屈服させられたアリストテレスの説話を作品にしました。そのアリストテレスが批判的だったのが、ヒポクラテスです。
記事 クラナッハ 三位一体と死んだ男 →死ぬ男
記事 クラナッハ(父)、クラナッハ(子) 不釣合いな恋人 Cranach I & Crana II
記事 ルーカス・クラナッハ(父) ヴィーナスとクピド(ヴィーナスとアモル) ピカソのリトグラフ
メランコリア(憂鬱) 1532
クラナッハ(父)ウンターリンデン美術館
クラナッハ(父)ウンターリンデン美術館
それから時代は中世にはいり、トマス・アクィナスはアリストテレスの信望者で、キリスト教の七つの枢要徳に対して七つの枢要罪をあげました。トマス・アクィナスも6世紀に改定された「八つの枢要罪」のメランコリア(憂鬱)を「怠惰」に含んだ「七つの大罪」にそったものです。
そう考えるとクラナッハが描いたこの女性は、メランコリア(憂鬱)を含んだ「怠惰」をあらわしていると仮定できます。
そうすると彼女は醜悪な姿のベルフェゴール。19世紀のコラン・ド・プランシーの「地獄の辞典」では男性の悪魔の姿で挿絵になっていますが、中世以前は女性の悪魔で、人に成り代わるときには、美しい若い女性の姿で現れたのです。
彼女は弓矢をつくっています。堕天使ベルフェゴールは戦いの武器の作り手でもあり、クラナッハ(父)は、古い伝説にある姿をそのまま描いているのです。
彼女の足元には、七つの大罪の「嫉妬」をあらわす「犬」がえがかれ、暗い天空には、地獄の竜に跨り槍を持つ「色欲」のアスモデウス?。ユニコーンには「憤怒」のサタンと言われていますが序列7番の侯爵アモンです。「暴食」をあらわす豚にはベルゼブブ。
1517年にルターが贖宥状に対する抗議をしましたが、その贖宥状を発行していた当時のカトリック教会ではこの七つの大罪のうち、「貪欲」(強欲)をもっとも罪深いものとし、司る悪魔マンモンも、聖書の翻訳の際に教会の教父たちがつくりだしたと言われています。
クラナッハ(父)のサインが入ったテーブルの上には、「ヘロデ王の宴」にも描かれていた果物。ここではパリスの審判でのヘスペリデスの林檎が描かれています。そして黄金の蓋物。この黄金の蓋物が富を象徴し、「貪欲」(強欲)のマンモンを表していると思ったのです。
さて七つの大罪でルシファー(サタン)を示すものがありません。孔雀で示される「傲慢」ですが、描かれているのは鶉。鶉はヴィーナスへの捧げ物でした。ところがスコットランド・ナショナル・ギャラリー所蔵の「メランコリアの寓意」にはルシファーをあらわすグリフォンが描かれているのです。
メランコリア(憂鬱) 1532(←full saiz)
クラナッハ(父) コペンハーゲン国立美術館
クラナッハ(父) コペンハーゲン国立美術館
こうして考えると、七つの大罪説も成立いたしますね。さて、問題はヴィーナスへの捧げ物とされる鶉。ベルフェゴールは性愛の星とされる金星の悪魔でもあるんですよ。金星はヴィーナスを示します。
デューラーの「メランコリア」(1519)の解説には、たしかにヒポクラテスの「四体液説」は適当かもしれません。
でもクラナッハがわざわざ「魔物」を描きこんでいるところを見ると、デューラーの「メランコリア」の模倣の陰で、ルターの思想を援護しているかのようです。
ルターは肉体的欲望を「結婚」という形に置き換え、ルター自身も1525年に修道女と結婚しました。「メランコリア」は、このあとの作品ですから、ローマ教会側が聖職者の結婚を非難している時期ではないでしょうか?なんといってもベルフェゴールは、人間界の結婚を観察する堕天使ですから。(笑)
メランコリア(憂鬱)
クラナッハ(父)工房作品 個人所蔵
クラナッハ(父)工房作品 個人所蔵
1530年、「アウクスブルク信仰告白」が起草されましたが、「聖書にないことは根拠がない」という告白も含まれています。聖職者の結婚の否定も聖書になく根拠がないとルターは教皇側の神学者たちへ反論しています。逸話には幸福な結婚など無いと言う結論を出したというベルフェゴールです。当のルターは結婚は幸福だと述べています。
この子供たち、人間界の天使としてクラナッハは描いているのかも知れません。ですが、私は七つの大罪から離れて、女神フォルトゥナ・ウィリリス(勇敢な幸運)とウェヌス・ウェルティコルディア(Venus Verticordia, 心を変えるヴィーナス)のウェネラリア祭を重ねてしまいます。
運命の女神フォルトゥナのアトリビュートでもある不安定な球体が4枚の「メランコリア」のうち3枚に描かれています。
そしてウェネラリア祭は不貞の浄化。つまりは、アダムとエヴァから始まって、パリスの審判ではヘレネーの陵辱からトロイア戦争に発展していくのですが、どうやら原罪と男女の色欲の罪が「結婚」によって浄化されるという寓意なのでしょうか。
今回の作品画像には私kafka(fu-)の署名入りとなっていますことをご了承くださいませ。