ヒットプロデューサーであり、東京事変のベーシストとしても活躍する亀田誠治氏が、制作現場で起きる問題点や出来事を、鋭くも温かな視点で分析する、短期集中連載コラム。

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レコーディングで陥りがちな“エディット地獄” 
この10年で日本人の歌のスキルは大幅にアップ

 この頃のアーティストは、ホント歌が上手になりました。音程が良くてリズム感もバツグン! でも、なんだかどれも同じように聴こえると思わない!?
 ひと昔前までは、ふらふら調子っぱずれの“へたっぴぃな歌”があったものです。でも、その可憐なルックスとキャッチーな楽曲に日本中が夢中!…みたいな。そう、それはその人が歌うことに意味がある歌。かつて、お茶の間ではTVを前に「この子音痴だね〜」なんて言われていたのに、今でもカラオケの定番として愛されているナンバーって結構あるよね。
 ところが、この10年で日本人の歌は変わりました。何を食べて、何を聴けばこんなに歌が上手になるの?もしや「音倫」みたいな検閲機関があって、秘密裏に “音痴狩り”でも行われているのではないか?歌だけは、からきしダメ(音痴/鼻声/持久力ナシ)な僕はそんな気持ちにすらさせられます。それくらい音痴な歌は、この世から抹殺されました。いったい全体この10年で、歌のスキルは本当に上達したのでしょうか?確かに、R&Bの歌姫達〜洋楽を聴いて育った世代〜が登場した99年頃を境に、日本人の歌唱力は大幅にアップしたように見受けられます。でも、ホントにそれだけ!?それよりも、ちょうどその時期に台頭し、急速に普及したハードディスクレコーディングと、この「上手い歌」とは無関係ではなさそうです(※1)

デジタルレコーディングは「完璧なテイク」を実現 

 この頃、レコーディング時間の大半は、ポストプロダクションに費やされています。その名も「エディット地獄」。僕はそう呼んでいます。直せるんだ少々のことは…。音程の修正、リズムの修正。デジタルレコーディングは、我々にとっての永遠の夢である「完璧なテイク」をいとも簡単に手に入れることを可能にさせました。音程もリズムもカッチリとエディットされた歌。特に洋楽でこの傾向は顕著で、現在アメリカではこの音程の修正は「エコーをつけるくらいの感覚」で当たり前に行われているようです。アメリカ人の発想は合理的です。昔だったらミックスの時にエコーをつけて(※2)ごまかしていた「音程の曖昧さ」を、今は波形に線を引いて、ボタンをクリック!
 その結果、巷で耳にするのは音程の良い「上手な歌」ばかり。だから作り手にとっても「歌った歌」よりも「直された歌」がスタンダードになっちゃって、音程がちょっとでもずれていると「ダメな歌」に聴こえてしまうんです。馬子にも衣装、可愛い我が子に赤っ恥をかかせたくないというその一心で、睡眠時間と引き換えに日夜エディットにいそしんでいるのです。
 みんな言うんですよ。「音程が全てじゃない!」「ニュアンスこそ命!」なんてね。でもそんなことを言う人に限って、音程で歌を聴いている。その証拠に僕のレコーディングで「OKテイク聴いてくださ〜い!」っていうと、むむっ、誰もが「音程の気になるところ」にチェックを入れるぜ!
 でもね、音程やリズムのダメ出しは誰にだってできるのです。それよりもそのテイクの「いいとこ」を見抜くことが大切です。結果それは聴き手の魂を揺さぶる「強い歌」になる。とはいえ、自分の中に「いい歌」の経験値がないとその「いいとこどり」はできません。ましてや、普段からSo, soな歌ばかり聴いて、それを「直す」のが当たり前になっているから、もう悪循環。しかも最近は So, soなエディットも急増中。「やるんだったら、プロとしてエディットの極みを見せてやれーぃ!」巷に溢れるエディットバレバレの歌を聴くたびに、ハラハラドキドキしているのは僕だけでしょうか?

時間を割くべきはポストプロダクションよりもプリプロダクション

 このコラムを僕はパソコンで打っています。以前は手書きで原稿用紙を使っていました。でも今はなんの疑いも無くパソコン。だって便利だもん。 いつでも直せるし、編集部にも“添付”してポンっ、…そう、ここに真実あり。
 クリエイターの皆さん!「直し」を前提に作業を進めていませんか?「少々のことは後で直そう…」とエディット任せにしていませんか?アーティストがレコーディング前に「練習をする」「コトバを噛み砕く」という時間を、おろそかにしていませんか?
 今こそ「エディット地獄」のポストプロダクションよりも、「クリエイト天国」のプリプロダクションに時間を割くべきです。結果スタジオ効率も上がり予算も削減できるはず。我々は夢を売る商売です。ディズニーの映画で「あ、ここエディットしたな」なんてところ1ヶ所も無いでしょ!?せめて「直し」のプロセスが見えるような作品を世に出してしまうのはやめときましょうよ!





※1:なんと…実際この時期を境に洋楽でも「上手い歌」が急繁殖!

※2:昔から、エコー(リバーブ)をつけて、音程の甘さをごまかすという手法がありました。素人さん相手のカラオケマシーンが、いつもエコーギンギンなのは、エコーの残響のおかげで、ピッチの細かいところがゴマけて、唄が上手く聴こえる(気がする)からです。
Posted at 14:00 | この記事のURL | Clip!!

亀田 誠治プロフィール
1964年、N.Y.生まれ。幼少の頃よりクラシックギター、ピアノなどを学び14才でベースを弾き始める。88年頃より、アレンジャー・プロデューサーとしての活動を始める。最近では椎名林檎、スピッツ、平井堅、Do As Infinity、クラムボン、PUFFY、175R、スガシカオ、平原綾香、山嵐等のアーティストのプロデュース&アレンジを手がける。それぞれのアーティストの長所を引き出す「いいとこどり」が得意。ビートルズと太宰治と赤塚不二夫をこよなく愛す42才。
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