「雨 2」⇒http://blog.oricon.co.jp/h_k_t_y_love/archive/1188/0
次の日の朝、私はあの人が起きる前に家を出た。
あの人に会うのがなんとなく怖かったからだ。
玄関を出るとやっぱり空は泣きそうで、
私はその日も傘を持って行った。
いつも通りに学校で過ごし、家に帰ろうと電車に乗る。
今日はバイトがないから、早く家に帰る。
あの人もそれを知っているはずだから、
さすがに今日は「田辺さん」は来てないだろう。
そんなことを思いながら電車に乗ると、
同じ車両にあの人が乗っていた。
仕事で相手先に行く途中なのか、家に帰る途中なのかはわからないが、
身体が一気に緊張していくのがわかった。
私が思っていたよりも、私にとってこの人の存在は大きかったらしい。
目を合わせないように反対を向いていると、
あの人は私の存在に気付いたようだった。
生まれて初めて電車の窓ガラスをも恨んだ気がした。
あの人がさりげなく私の横に来て、
「次の駅で降りなさい。」
とだけ呟いた。
私に拒否権はない。
次の駅で降りたのは、私とあの人だけだった。
都会にある割には治安が悪くて、誰かが住むような場所でも、
わざわざ来る用事ができるような場所でもないからだ。
あの人は突然私に言った。
「何で昨日は家にいたの?
あなたいつも家に居ない日よね?
どうして予定と違うことをするの?
そんなに私の邪魔がしたい?
私はずっとあんたを1人で育ててきたのよ?
それなのにどうしてあんたは私の邪魔ばかりするの?
そんなに私のことが嫌い?
なんなの?
何がしたいのよ?」
さんざん叫んだあと、あの人は私をひっぱたいた。
「あんたなんかいなくなればいいのに。」
「あんたなんか生まなきゃよかった」
「あんたのせいで私は幸せになれないのよ」
そう言いながら、私は何度も頬を叩かれた。
私は泣いていた。
頬が痛かったからじゃなくて、心が痛かったから。
自分が必要とされていないことは知っていたつもりだった。
この人にとって邪魔者でしかないこともわかっているつもりだった。
でも、私が思っている以上に、私はこの人の邪魔者でしかなかった。
存在する意味がないのではなく、存在すること自体が迷惑だったのだ。
一度叩かれるたびに、その実感がぬり重ねられていく。
私は気付いたら口の中が切れるほど叩かれていて、頬には涙が伝っていた。
周りには私たち以外誰も居なかった。
ひとしきり叩いたこの人は、
「なんなのよぉ。」
そう言いながら泣いて崩れ落ちた。
このとき初めて私は、自分のせいでこの人は
田辺さんと上手くいかなかったんであろうことに気付いた。
しばらくの間私は、崩れ落ちることもせず、ただ突っ立っていた。
「あぁ、私はいないほうがいいんだ…」
色々なことが頭の中を駆け巡った結果、私の結論はそこに辿りついた。
結論というより、原点に近かった気がする。
電車の音が聞こえた。
その瞬間、私の足は線路へと向かい、今、私は線路の上へと向かっている。
落ちる前に一度あの人のほうを向いたせいで、私は今空を見上げている。
あと数秒で電車が私の上を通る。
空はやっと泣き始めた。