その25 
 この先も、まだ部屋は続いているのだろうか。そしてこの中からまた1人、犠牲者が出ることに……。
 悔しいが、現実を受け止めなければならない。良い方法が見つかれば別だが。
 まるで映画のような、ゲームのような、不条理で残酷なこの闇から、自分たちはいつ脱出できるのだろうか。
 全滅するまで行われるのか。それとも……。
 だとしたら俺は全力で優奈を守る。自分の命を落とすことになってもだ。それで彼女が助かるなら本望だ。
 他の三人には悪いが、自分の中では優奈の命が一番重い。最後まで生きていてほしいと思う。
 しかし、助かる者が出る可能性を考えること自体、無謀なのかもしれない。  僅かかもしれないが、希望を託して、この扉を開こう……。



第四の扉

 3人が死んだというのに、時の流れは異様なほど静かだ。
 美紀の体力が回復したところで、友一は皆に視線を送り、
「開けるぞ」
 と扉に手を伸ばす。その声に迷いはない。しかし、どこか怯えが混じっているのを、優奈は感じた。
「開けろよ」
 躊躇(とまど)いなど一切感じられない竜彦の声が聞こえた。先を焦っているような感すらある。
 この自信に満ち溢れた態度は何なのだろう。
 考えれば考えるほど、彼が分からなくなっていく。何かを企んでいるのは、確かだと思うのだが……。
 友一が、鉄の扉に手をかける。優奈は、これが出口への扉であることを祈り続けた。
 目の前に広がる光景を見た瞬間、優奈は胸を弾ませた。
 出口だ! そう思ったのもつかの間、ただの勘違いであることを理解し、心を沈ませる。
 今までよりも倍以上の広さだったため、これはもしや、と期待してしまったのだ。しかしよく見れば、やはり〈死の部屋〉に違いはなかった。殺風景すぎる室内には、殺伐とした空気が漂っている。優奈は、自分が服の袖を力強く握りしめているのに気づき、溜息を吐きながら力を抜いた。少しでも期待した自分がバカみたいだった。
 友一は重い足取りで部屋に入る。次いで竜彦、翔太、美紀と、次々と進んでいく。
 無意識のうちに、優奈の足も動いていた。後ろから誰かに背中を押されているような錯覚に陥る。
 今までの部屋と違うのは広さだけではなく、床の作りにも変化があった。
 コンクリートではなく、一面が黒いガラス張りだった。
 真ん中に蛍光色に光る1本の線が入っているのは、何を意味しているのだろうか?
 この部屋も先ほどと同様、扉を開くスイッチはない。何かが出てくるような小さな穴もない。しかし、一瞬の油断も許されない。必ず動きがあるはずだ……。
 友一は天井、壁、床を念入りに確認しながら慎重に1歩、2歩と進んでいく。
「みんな、気をつけろよ」
 翔太は顔をしかめ、友一の後ろに続く。竜彦もこの時だけは警戒している様子だ。
 優奈はふと、どこからか軋むような音が聞こえてくるのに気づく。
 足元からだ。1歩足を踏み出すたびに、ガラスがギシギシと音を立てている。それが耳障りで、寒気がしてくる。
 思わず屈み込んで、ガラスに目を凝らす。そこには、恐怖に怯える自分の顔が映っていた。この数10分で、頬がゲッソリ痩せこけている。
 まるでドクロのようではないか。とても自分だとは思えない酷い顔つきに、優奈はゾッとする。
「今度は一体……何だ!」
 そう言って翔太が突然振り返った。思わず優奈はひっと飛び上がる。
「ど、どうしたの!」
 妙な気配を感じるのか、翔太は優奈の肩ごしに、あらぬ何かを見つめている。
「清田くん?」
 問いかけると、翔太は首を傾げた。
「……気のせいか。豊がこっちを見ていた気がしたんだよ」
 思い過ごしではあったにせよ、第六感まで研ぎ澄まされている証拠だ。
「やめてよ!」
 口から心臓が飛び出そうだった。
 精神状態はもうとっくにピークを超えているというのに、死よりも先に、気を失ってしまいそうだ。
 友一、翔太、竜彦、美紀の4人は部屋の中央で一度立ち止まる。
「……優奈ちゃん」
 早く隣りに来てというように、美紀が不安げな声を洩らす。
 この時、優奈はふと違和感を覚えた。
 そういえば、美紀に名前で呼ばれたのは初めてではないか。ずっと松浦さんと呼ばれていた気がする。こんな場所で彼女との距離が縮まるなんて、皮肉なものだ。
 この状況にもかかわらず、どうでもいいことを考えている自分を不思議に思う。少しでも気を紛らわせたいのかもしれない。
 気持ちを落ち着かせるため一つ息を吐き、優奈は神経を集中させて、4人がいる中央部に進んでいく。美紀の隣りに立つと、美紀はこちらの袖を強く握りしめてきた。
 微かな震えが伝わってくる。優奈は、
「大丈夫」
 と囁き、美紀の右手を優しく包んだ。本当は、他人を安心させる余裕などないのだが、そう言葉をかけることで、一番安心感を得ているのは自分自身だった。
 部屋の中央で輪を作った5人はお互いに背を向けて立ち、いつ何が起こってもいいように、万全の態勢を整えた。しかし、3つの部屋で、それぞれ必ず一人が犠牲になってきたことを思うと、〈助け合い〉という言葉は存在しないのかもしれない。だがこれ以上、犠牲者は出したくないし、自分だって死にたくない。何もできず、ただ待つだけの時間がこれほど辛いとは思わなかった。


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著者プロフィール
山田悠介(やまだゆうすけ)

1981年東京都生まれ。2001年に「リアル鬼ごっこ」でデビュー。発売直後から口コミで評判となり、70万部を超える大ベストセラーとなる。 その後も『親指さがし』『×ゲーム』『レンタル・チルドレン』(幻冬舎)、 『特別法第001条 DUST』(文芸社)など、快調なペースで作品を発表。 若い世代の絶大な支持を得ている。


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