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| その27 |
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希望を見出した優奈は息を荒らげながらも、汗だくになって砂を掻き分け、少しずつ、少しずつ前へ進んでいった。
汗が目に滲み、腕や足が悲鳴を上げる。それでも必死に扉を目指して身体を動かした。
まず初めにガラスの床を掴み、扉の前に到達したのは竜彦だった。次に翔太。そして、友一だ。
友一はすぐに振り返り、
「優奈ちゃん!」
と下に手を差し出してくれた。優奈はグッと腕を伸ばし、友一の手を掴もうとしたが、まだ手が届く距離にまでは到達していなかった。
一瞬動きを止めただけで、みるみる身体が埋まっていく。
「もう少し! 頑張るんだ!」
友一が優奈を見つめて叫んでいる。
優奈は体勢を整え、徐々に距離を縮めていく。
ここならと、優奈は再度腕を伸ばした。
届きそうで、届かない。まだ、数センチ足りない。微妙な距離に歯軋りしたい思いだった。何とかもう少し進んだところで手を伸ばすと友一の指に触れた。優奈は指先に神経を集中させる。腕の血管が破裂しそうなほど、目一杯伸ばす。
2人の手が、ようやく繋がった。
「よし!」
友一は気合いを入れると、唇を噛みしめ、グイグイと優奈を引き寄せ始めた。その友一が再び砂場に持っていかれないようにと、翔太が後ろから腰を押さえていた。
数秒遅かったら、どうなっていただろう。
腰まで砂に埋まっていた優奈は友一に引き上げられ、何とか、扉の前に到達することができた。
しかし、それで終わりではなかった。
助けを求める美紀の声に、慌てて下を見た。
美紀の身体は、胸の辺りまで呑み込まれてしまっている。両手をバタつかせ、必死にもがいている。しかし、もう彼女だけの力ではどうしようもできないことは、誰の目にも明らかだった。
もがいたせいで、いつもはきちんとしているはずの髪はボサボサに乱れ、表情には鬼気迫るものがあった。見慣れていたメガネも、どこかへいってしまっている。
いつも静かで穏やかな美紀は、そこにはいなかった。
「山岡くん!」
美紀を助けてくれるよう友一に求めたが、竜彦が即座に言いきった。
「やめとけ」
耳を疑うようなその言葉に、優奈は厳しい視線を投げつけた。
「いい加減分かるだろう。必ず1人が犠牲にならなければ、扉は開かない。もしあいつを助ければ、どうなるんだ? お前が落ちるのか?」
そう言った竜彦は、今度は友一に視線を向ける。
「お前は松浦を助けた。それがどういう意味か、自分でも分かってるだろ」
その言葉は鋭い槍の如く、友一の胸に突き刺さった。友一は何も言い返せず、視界から美紀を消すように背を向けた。
4人の耳に、美紀の金切り声が響く。肩まで埋まってしまった美紀の、顔は真っ青で泣き叫びながら助けを待っている。
その時、間近に迫りつつある死に怯える美紀と、目が合ってしまった。
頼れるのはあなただけ。ねえ助けてお願い。死にたくない。彼女の目がそう訴えている。
優奈は辛くて見ていられず、
「ごめん」
と呟いて顔を伏せた。自ら仲間を見捨てた瞬間だった。
「お願い、助けて!」
それが彼女の最期の叫びだった。同時に、左右に開いていた床のガラスが元の位置に戻り始めた。
優奈が顔を上げると、渦巻く砂に呑み込まれつつある漆黒の髪の毛が見えた。
その髪の毛には、彼女の怨念が宿っているように思えてならなかった。
見殺しにしたあなたたちを許さない……。
やがて、その黒髪も砂の中に消え、後には穏やかな砂地だけが残った。
優奈は自分のとった行動が恐ろしくなり、助けを求める彼女の瞳を忘れようと、消えた美紀に背を向けた。
ガラスの床が元の位置に戻ると、扉の鍵が開いた。しかし優奈はそのことに気がつかない。
美紀だけではない。豊も私たちを恨んでいるはずだ。もしかしたら、照之や千佳さえも……。
美紀の死は、悲しみよりも恐怖を生んだ。
突然、肩を叩かれた優奈は小さな悲鳴を上げ、その手を振り払った。振り返るとそこには友一の驚いた顔があった。
「優奈ちゃん……大丈夫?」
落ち着くように自分に言い聞かせたが、動揺は隠せなかった。優奈は目を泳がせながら、
「行きましょう」
と自ら扉を開けた。
逃げたかった。彼女の怒りと哀しみの渦巻くこの部屋から一刻も早く。
優奈は逃げるかのように通路に出た。しかし、いつまでも、美紀の泣き声が耳から離れない。耳を塞いでも、消えてはくれなかった。
優奈は、自分が素足になっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
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| Posted at 13:51
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