
まだ早い。
オイラはそう考えた。あと3時間は我慢しよう。でも、3時間後だと夜の10時を過ぎてしまう。夜の10時に女のコの家へ電話するのは不謹慎なのだろうか?
ユキちゃんは実家暮らしだ。『こんな夜遅くに電話とはなんだ!』とお父さんに怒られるかもしれない。
会ってもいないうちに非常識な人間だと
思われるのは得策ではない。
だったら……今、かけるべきだ。オイラの部屋にかけてきたということは、ユキちゃんは部屋にいるということだ。オイラからの電話を待っているかもしれない。
今現在、時刻は19時過ぎ。普通の家庭なら食事時だ。うちは夕方の6時に晩御飯を食べるのが常だった。だとしたら、晩御飯は終わっているかもしれない。
となると、後片づけの時間でユキちゃんは台所で洗い物をしている可能性が高い。晩御飯を食べながらビールを飲んで酔っ払ったお父さんが電話に出るということも考えられる。
酔っ払って、気が大きくなったお父さんはオイラからの電話をおもしろくないと思い、『おまえは誰だ?』と恫喝されるかもしれない。『うちの娘とどういう関係なんだ?』と。
でも、そもそも、自宅の電話に父親は出るだろうか? うちの父ちゃんは電話に出ることはほとんどなかった。
我が家では、母ちゃんか、もしくは彼氏からの電話を待っている妹が電話に出た。晩飯を食い終わった後の父親はゴロリと畳に寝転んで、テレビを観ているというのがほとんどだった。オイラも弟も電話に出るということはまずなかった。
30分待とう。
30分後に電話をしよう。オイラは受話器をフックに置いたまま、何度も何度もユキちゃんの電話番号をプッシュし続けた。